生化学の教科書は非常にたくさん出版されており、それぞれに特色があります。医学書院の系統看護学講座『生化学』は、内容がかなり豊富ですが、見やすい図を多用してわかりやすく簡潔に説明されているので適度なページ数に収まっています。
出版社書籍サイトの正誤表
*2023年4月30日に確認した時点では、出版社書籍サイトの正誤表(https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/92100)はまだ第3刷に対するものしか公開されていませんでした。
- 第1刷(2019年1月6日発行)~第3刷(2021年2月1日発行)の正誤表(PDF)(医学書院ウェブサイト)
第5刷を読んでいて自分が気付いた箇所
219ページ 4行目 真核生物では、ポリA付加シグナル(▶221ページ)とよばれる配列の約10~35塩基ほど3’側(下流)で転写終了となる。
221ページの説明とやや違い(転写終了 vs. 切断)があります。
221ページ 下から3行目~ ポリA付加シグナル(AATAAA)を通過して、mRNA前駆体を合成する。その後、mRNA前駆体は、ポリA付加シグナルの約10~35塩基ほど下流で切断され
219ページの説明とやや違いがあります。
実際のところどうなのかネットで文献をみてみると:
- 転写伸長研究の新展開 山口雄輝 〔生化学 第82巻 第3号,pp.210―220,2010〕 転写終結はポリ(A)付加シグナルの下流200から2,000塩基の位置でランダムに起こと言われている.
第4刷を読んでいて自分が気付いた箇所
医学書院の『系統看護学講座 専門基礎分野 生化学 人体の構造と機能2』第 14 版 の第4刷 を自分は持っていて読んでいるのですが、誤植や図の誤りと思われる気になる点があったのでまとめておきます。
2023年2月に第5刷が出ており、このブログ記事での指摘の多くは第5刷では修正されていましたので、以下の指摘箇所に、その旨を付記しました。
(この記事のURLを出版社に連絡 2022/10/19)
追記の記録:(2023/02/22記)
5ページ 図1-2 表中の数字の説明で、元素記号の左上の数字を「元素番号」、下の数字を「原子量」としていますが、元素番号という言葉は自分は見たことがありません。これは「原子番号」でしょう。また、原子量は、同位体が天然に存在するためこのような整数にはなりません。通常の周期表のように、小数点以下までの数字を書いたほうがよいのではないでしょうか。(2022/11/18記)【第5刷】元素番号⇒原子番号 修正済
22ページ 「エントロピーと自由エネルギー」の項目において、反応により秩序が増すのを埋め合わせるための量としてギブス自由エネルギー変化を説明しているのですが、この説明が最善なのか疑問に思いました。熱力学の教科書を読むと、ギブス自由エネルギーの定義式には、エンタルピーとエントロピーの2つの項があります。(2022/10/20記)
22ページ~23ページ 「エンロトピーの変化、すなわち、ギブスの自由エネルギーの変化(ΔG)」 ギブス自由エネルギー変化がエントロピー変化だけであるかのように読み取れ、エンタルピーの寄与が考慮されていないこの説明は、誤解を招くのではないかと思いました。(2022/10/20記)
23ページ 本文1行目 誤 エンロトピー ⇒ 正 エントロピー(2022/10/20記)【第5刷】修正済
23ページ 図23 ATPおよびADPの構造を描いた図で、リボースは生体に存在するD体であるべきところが、鏡像異性体のL体として描かれている。36ページも同様。ちなみに184ページ図10-14のAMPの図では、鏡像異性体D体として正しく描かれています(リン酸が左側に、塩基が右側に)。(出版社に連絡 2022/06/27)【第5刷】修正済
24ページ 3行目 誤 負の値 ⇒ 正 負の大きな値 ただし、もう少し正確にいうなら、「生体内で加水分解される化学反応においてΔGが負の大きな値をとる化合物」といった説明になるかと思います。(2022/10/20記)【第5刷】修正済
28ページ 図2-5b. エネルギーを示す曲線の右側が、右下がりのままですが、生成物のエネルギーは一定の値なので右下がりでなく水平であるべきです。ちなみに、活性化エネルギーの左側は水平に描かれています。【第5刷】修正済
36ページ 図2-11 ATPの構造を描いた図で、リボースが生体に存在するD体であるべきところが、鏡像異性体のL体として描かれている。23ページも同様。(出版社に連絡 2022/06/27)【第5刷】修正済
44ページ 図2-15 間違いとは言いませんが、丸印が測定点のつもりであるのなら、カーブフィットさせたグラフ(曲線であれ直線であれ)は、丸印のところで止めてしまわずにその先まで描くほうが自然だと思います。aもbも同様。【第5刷】修正済
75ページ 図4-8 グルコースの構造式で5位の炭素に結合する水素が抜けている。その下のグルコース6-リン酸も同様に、5位の炭素の水素が抜けている。正しくは、は55ページ図3-6b.ハース投影式を参照のこと。【第5刷】修正済
78ページ Column内の本文右側、上から3行目 「α-リポ酸はビタミンそのものである。」 39ページからの種々のビタミンの説明において、α-リポ酸がビタミンであるという説明はありません。39ページのα-リポ酸の説明においても、これがビタミンであるとは説明していません。また、α-リポ酸に関するQ&A(厚生労働省)には、「文献によってはα-リポ酸をビタミンと記載しているものもありますが、α-リポ酸はビタミンではなく、ビタミン様物質として扱われています。」と説明されています。α-リポ酸をビタミンと考える考え方もあるのだとは思いますが、この教科書ではそのように取り扱っていない以上、このページでだけ「ビタミンそのものである」と言ってしまうのは、一貫性に欠くと思います。【第5刷】修正済
96ページ 復習と課題③2. ホスホフルクトキナーゼ1 74ページにホスホフルクトキナーゼの説明がありますが、1は付いていませんので、練習問題は本文の説明に合わせたほうが良いでしょう。ホスホフルクトキナーゼ2という酵素もあるため、1を付けたほうがより正確であって、間違いというわけではありません。【第5刷】修正済
96ページ 復習と課題④4. 誤 ピロドキサルリン酸 ⇒ 正 ピリドキサールリン酸 ピリドキサールリン酸(pyridoxal phosphate; PLP)の説明は37ページにあります。【第5刷】修正済
103ページ グリセリン グリセリンとグリセロールは同一の化合物の別称なので、どちらを使っても正しいわけですが、同じページ内の図5-6ではグリセロールと呼んでいますし、この教科書の他の場所でもグリセロールと書かれているため、一貫性を保つためにもここはグリセロールとしたほうがよいのでしょう。【第5刷】修正済
133ページ ヒスチジンの側鎖の+をつけるNが逆。(20230502記)【第5刷】修正済
148ページ図8-8 「筋肉」の側で、筋肉のタンパク質→アミノ酸→NH3→グルタミン酸 手元にある『マークス臨床生化学』の説明だと、アミノ酸のα‐アミノ基がα‐ケトグルタル酸に転移してグルタミン酸ができ、今度はグルタミン酸のα‐アミノ基がピルビン酸に転移してアラニンができるので、NH3(アンモニア)はここでは登場しないのではないかと思います。ただしレーニンジャーの教科書には、筋肉のタンパク質 → アミノ酸 → NH4+ → グルタミン酸 という図が書かれていて、これに倣ったのかもしれません。自分の理解不足のせいかもしれませんので、疑問としておいておきます。
151ページ 5尿素回路 本文1行目 誤 アミノ酸のアミノ基は、グルタミン酸に転移されたあと⇒ 正 アミノ酸のアミノ基は、α-ケトグルタル酸に転移されたあと 同じような説明が148ページのグルコース-アラニン回路の項の1行目「アミノ酸のアミノ基は、ピルビン酸に転移され」などにありますので、これをみれば、生成物の名ではなく、転移される前の化合物名であるべきことがわかります。【第5刷】修正済
250ページ 1水溶性リガンドと脂溶性リガンド 本文2行目 誤:ヌクレオチド ⇒ 正:ヌクレオシド ちなみに同じページの表14-1にはヌクレオシドと正しく表記されている。(出版社に連絡 2022/07/14)【第5刷】修正済
250ページ 脂溶性リガンド▶アミノ酸ホルモンやステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、ビタミンD3などは脂溶性であり ここで「アミノ酸ホルモン」が、甲状腺ホルモンを指すのであれば、言葉がダブっており削除したほうが誤解を招かないと思います(表14-1の化学構造による分類:アミノ酸 の項目に水溶性のアミノ酸も並んでいるので)。(2023/02/22記)
254ページ 図14-5 IP3の受容体を描いた図で、IP3受容体とCa2++ チャネルとが別の分子として描かれている。IP3受容体はそれ自身がCa2++チャネルでもあるので、一体として描く必要がある。251ページにイオンチャネル内蔵型受容体の説明および図があるが、IP3の受容体はイオンチャネル内蔵型受容体なので、まさにこう描かなくてはいけない。(出版社に連絡 2022/07/14)【第5刷】修正済 図が修正されていますが、まだ、IP3受容体とCa2+チャネルとが結合して存在しているかのように見えなくもありません。実際には、一本のポリペプチド(一つのタンパク質)であり、IP3受容体の部位と、Ca2+チャンネルの部位が存在します。
277ページ 本文1行目 誤 Ras-MAPシグナル伝達経路 ⇒ 正 Ras-MAPキナーゼシグナル伝達経路 ちなみに、Ras-MAPキナーゼシグナル伝達経路の説明が256ページにあります。【第5刷】修正済